2025年4月24日(木)
百日咳の流行と三種混合ワクチンの任意接種について
現在、全国的に百日咳の流行が報告されています。特に日本ではワクチン接種前の0歳児と小学生以上の小児で流行していますが、0歳児に感染した場合は重症化しやすく、命に関わることもあります。ご兄弟が家庭内に持ち込むことも多いです。
■ 百日咳とは
百日咳は主に「Bordetella pertussis」という細菌が原因となる呼吸器感染症です。
初期症状として、鼻水・くしゃみ・微熱といったかぜのような症状から始まり、進行すると特徴的な激しい咳(コンコンコン…ヒューと息を吸い込む)を伴い、咳込みで嘔吐することもあります。
特に乳児では無呼吸やチアノーゼを伴うことがあり、注意が必要です。
適切な抗生剤(マクロライド系など)で治療しても、百日咳毒素の影響により咳は数週間〜2か月ほど長引くことがあります。また、未治療のままでは発症後3週間以上、最大1か月間にわたって周囲への感染力が続くとされます。
診断にはPCRや抗体検査が用いられますが、迅速診断キットはなく、初期には風邪との鑑別が困難であることから、早期診断が難しい病気です。そのため、発症予防のための予防接種がとても重要です。
■ 小児・学童期の百日咳対策:3種混合ワクチンの任意接種
日本では現在、定期接種として「5種混合ワクチン(DPT-IPV+Hib)」が生後2か月から1歳までに4回接種されます。生後2か月未満の0歳児は母親の免疫に依存しており、ほとんどの方が免疫を持っておらず、この年代の重症の百日咳が日本では問題となっています。
その後、百日咳の免疫の低下が始まる就学前(年長時)に「3種混合ワクチン(DPT)」の追加接種が推奨されていますが、こちらは任意接種となります。すべての子どもが接種しているわけではないため、小学生以上では百日咳の報告が増えています。
その後徐々に免疫が低下するため、小学校高学年になると再び感染するリスクが高まります。
そのため、当院では希望者に対し「11歳時の2種混合ワクチン(DT・定期接種)」を「3種混合ワクチン(DPT・任意接種)」へ変更することも可能です。就学前にDPTの追加接種をした場合は、5年以上の間隔をあけることが望ましいです。
■ 妊婦への3種混合ワクチン接種について
生後2か月未満の赤ちゃんは百日咳のワクチンをまだ接種できないため、妊婦が抗体をもつことで赤ちゃんへ移行し、生後すぐの感染予防が期待されます。欧米(アメリカCDC・イギリスNHSなど)では、妊娠27週〜36週の間に毎回の妊娠ごとにTdap(成人用3種混合ワクチン)の接種が推奨されています。
日本では成人用Tdapワクチンは未承認のため、希望者には小児用DPTワクチン(DTaP)を適応外で使用する場合があります。
※Tdapは思春期以降のブースター接種用で、小児用のDTaP(DPT)よりもジフテリアと百日咳の抗原量が控えめで副反応を抑えて作られています。
【参考】国内エビデンス:静岡Study・沖縄Studyについて
静岡Study(浜松医科大学ほか):妊婦へのDPT接種による母体と新生児の抗体価上昇を確認。安全性にも問題なく、出生後4か月時点でも百日咳抗体価は有意に高く、乳児保護に有効であることが示唆されました。
沖縄Study:県内医療機関での実地調査により、妊婦へのDPT接種により、生後早期の乳児の百日咳罹患率が低下したことを報告。地域レベルでの母子予防効果が検証されつつあります。
当院では、妊娠27〜36週の妊婦の方で希望される場合、医師の説明と同意のうえで3種混合ワクチンの接種が可能です。
■ まとめ
百日咳の感染予防には、学童期を中心とする年齢に応じたワクチンの見直しや妊婦への対策が重要です。
ご希望やご質問がありましたら、いつでもご相談ください。